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高齢者の摂食嚥下機能~たべること・のみこむこと~
世界でも類を見ない高齢化が進み、ついに「4人に1人が高齢者」の時代に突入した日本。これからの歯科には「歯科疾患の治療」だけでなく、要介護状態の高齢者等における、摂食・嚥下障害を中心とする「口腔機能障害の改善」も求められることになります。
高齢になると身体機能にさまざまな変化が生じますが、摂食・嚥下機能も同様です。
しかし加齢に伴う変化は個人差が大きく、基礎疾患が及ぼす影響がかなり大きいのも事実です。また摂食嚥下機能が変化すると、食事の嗜好も変化しやすく、栄養状態などにも大きな影響を及ぼします。
歯科医院で治療中に、横になった状態で治療を行うとむせる人がいます。これは70歳前後の男性に多くみられる症状です。この年代の男性の喉頭(のど)は軟骨から骨化して重くなっていき、筋肉が劣化して緩みます。その結果、喉頭蓋の回転がスムーズにできずにむせるようになり、嚥下障害が起こりやすくなります。鼻がつまりやすい冬などは歯科治療で口腔内に溜まった水を吸引した後、少量残った水を飲みこんだ時に誤嚥してむせてしまうことがあります。心あたりのある方は摂食・嚥下機能が弱くなっている可能性があります。
介護予防サービスの基本チェックリストの中にも口腔機能の向上という項目があります。
・半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか
・お茶や汁物等でむせることがありますか
・口の渇きが気になりますか
これらのうち2項目以上に該当する場合には、口腔機能の低下の可能性が高く、注意が必要です。
摂食嚥下の5期
では普段何気なく行っている食事の中で摂食・嚥下はどのように行われているのでしょうか。
図①のように、口から食べ物や飲み物を摂取し、胃に送り込むまでには5期の流れがあります。
摂食嚥下機能に何らかの障害がみられた場合、どの段階で障害が生じているのかを検査し、誤嚥防止の訓練(リハビリテーション)や改善策(食べ方の指導や口腔ケア)などを診てもらうことが大切です。現実の対応は、飲み下しやすい「軟食」への切り替えが優先されがちです。それは楽に食べられて栄養が採れるようにという配慮からですが、ベビーフードのような介護食や流動食を続けると、咀嚼により分泌される刺激性唾液の量が減少し、食物の咽頭への送り込みがますます弱まってしまいますので適切な対応が必要です。
水分をしっかり摂取しましょう
加齢によって咽頭の感覚が鈍り、むせやすくなると、多くの高齢者の方は水分の摂取量を減らします。喉が渇くという感覚も鈍くなり、さらにエアコンの乾燥した空気が拍車をかけ、口腔内はどんどん乾燥していきます。
水分をしっかり摂っているという人でも、朝・昼・晩の食後に湯飲み茶わん一杯ずつという例も珍しくありません。夜中にトイレに行くのが面倒だからという理由で水分を控える人もいます。
唾液が減少し、ドライマウスの症状があるときはまず、水分摂取量を増やすようにすること・よく噛むことが大切です。緑茶・コーヒー・紅茶はカフェインを多く含むため利尿を促すので控えましょう。また、唾液腺マッサージや口腔保湿剤も有効です。
最近よくむせるな、と感じたらそれは嚥下機能低下のサインかもしれません。むせたときの喀出力(胸やのどに詰まったものを吐き出す力)が弱い場合は誤嚥性肺炎につながる可能性もあります。
もし、嚥下障害がある、または嚥下障害が疑われる場合には摂食場面を観察して状態を把握します。より専門的な対応が必要と判断された場合には、摂食嚥下の専門の先生に評価を依頼しましょう。嚥下内視鏡検査などにより嚥下機能を評価し、姿勢や食形態、食べ方などを調整します。患者様の機能に合わせた訓練法が提案されるので、専門の歯科医師と連携して対応するよう取り組まれています。
参考文献:『診療室に来院される高齢の患者さんとの対応と口腔機能の基礎知識』医歯薬出版